AIエージェントドリブン経営が、都市型スーパーの欠品問題に毎日立ち向かった


創業のきっかけ

2003年、左川智子(当時38歳)は、東京・世田谷区の住宅街に小さなスーパーマーケット「左川商事」の1号店をオープンした。

創業のきっかけは、ある日の買い物体験だった。子育て中の智子が夜7時に仕事帰りでスーパーに立ち寄り、棚を見て絶句した。夕食の食材が軒並み品切れだった。

「必要なものが、必要なときに、ない」

その日から智子は考え続けた。消費者が求めているのは広い売り場でも豊富な品揃えでもない。「必要なものが、必要なときに、必ず手に入る」という安心感だ。

左川商事の経営理念「必要なものを、必要な時に、安心して届け続けることで、人々の豊かな日常を支える」はその原体験から生まれた。住宅街に密着し、地域の人々の生活リズムに合わせた品揃えと補充サイクルで信頼を積み上げ、20年で都市型スーパーチェーンへと成長した。

経営者の想い

「欠品は、私たちにとって最大の失敗です。お客様が必要としているものが棚にない——その瞬間、私たちは経営理念に背いている」

そう語る智子は、「都市型スマート流通事業2030」として2030年に売上3,000億円・顧客満足度4.5点・店舗欠品率1%未満を目指す大きなビジョンを掲げた。しかし現実は、理念と真逆の数字を突きつけてきた。

現状の課題——「なぜ補充が間に合わないのか」の連鎖

2026年5月時点、左川商事のBSC実績は深刻な乖離を示していた。

KPI 2026年目標 実績(2026/5) 乖離
店舗欠品率 5%未満 10.5% 2.1倍
在庫補充リードタイム 12時間以内 28時間 2.3倍
倉庫出荷遅延率 4%未満 10.5% 2.6倍
顧客満足度 4.0点 2.0点 −2.0pt
LTV(顧客生涯価値) 18万円 11万円 −39%



欠品率10.5%の根本にあるのは「在庫補充リードタイム28時間」だった。店舗が補充要求を出してから商品が届くまで28時間——目標の2倍以上。その間に商品は売り切れ、棚は空になる。棚が空になれば顧客は他店に流れ、購買頻度が下がり、LTVが下がり、顧客満足度が下がる。

「倉庫出荷遅延率10.5%、在庫補充LT28時間、欠品率10.5%——数字の背景にある因果連鎖はわかっている。でも、どこから手をつければいいかが、わからない。4部門(経営管理部・店舗運営部・物流部・ビジネスプロセス管理部)がそれぞれ問題を認識しているのに、誰が何を制御すべきか合意できない。縦割りの壁が、お客様を待たせている」

AIエージェントドリブン経営との出会い

2026年4月、智子は知人の経営者から勧められたウェビナーに参加した。

登壇者が見せたのは、小売業のオペレーション自律化デモだった。AIエージェントがBAMシステムから「ピッキング工程の制約スコア最大」を検知し、物流部エージェントがKPI APIで在庫補充リードタイムを取得し、TOC制御方針を自動判定して克服制御を実施し、店舗運営部エージェントが並行して欠品対策を展開する——4部門のAIエージェントが連携して、毎日サプライチェーンを自律制御する様子だった。

小売業のオペレーションの制約の制御のDEMO動画

「倉庫出荷遅延率10.5%、在庫補充LT28時間——画面に映ったKPIが、まさに私たちの現実と同じ数値でした。自分たちの問題を見ているようで、思わず前のめりになりました」

導入の決断と実装

問い合わせの翌月、左川商事はmyCompanyの導入を開始した。

4部門にAIエージェントが配置され、毎日の自律制御サイクルが始まった。

経営管理部エージェントが毎朝BSCのKPI実績を観測し、乖離の因果連鎖を分析する。「倉庫出荷遅延→在庫補充遅延→店舗欠品→購買頻度低下→LTV低下→顧客満足度低下」という構造を可視化し、制御すべきビジネスプロセスを特定してビジネスプロセス管理部エージェントへ指示を出す。

ビジネスプロセス管理部エージェントはBAMシステムのAPIを呼び出し、物流センターの全工程をスコアリングする。ピッキング工程の制約スコア(0.36036)が最大値と判定され、担当部門として物流部と店舗運営部の両エージェントに制御が引き継がれる。

物流部エージェントはピッキングKPIを取得し、ハンディ端末エラー率(スコアのGAP=9.0)を主制約として特定。TOC判定「克服制御」に基づき、Wi-Fiアクセスポイント増設のエスカレーションと端末刷新指示を実施する。店舗運営部エージェントは在庫補充リードタイムを監視し、「適合制御→克服制御」へ方針を昇格させ、緊急補充チャネルの確立を計画・記録する。

制御後、両エージェントはKPI APIで効果を測定し、ビジネスプロセス管理部エージェントへ報告。その集約サマリーが経営管理部エージェントへ届き、1サイクルが完了する。

変わった日常——「問題が見える」経営へ

「以前は毎朝9時のミーティングで、店長から『昨日また欠品がありました』と報告を受けていた。原因を聞いても、物流のせい、店舗のせい、という話になってしまう。今は朝8時にAIエージェントのサイクルレポートが届き、どの工程の制約スコアがいくつで、どの部門がどんな制御を実施し、結果はどうだったかが一目でわかる」

毎日蓄積される実践ナレッジは、サイクルを重ねるごとに精度を高めていく。前日の制御が効いたか否かを翌日のAIエージェントが参照し、うまくいかなかった制御方針から学びながら次の制御を設計する。

「学習し進化する組織って、こういうことだったんですね。AIエージェントが毎日記録し、毎日学び、毎日少しずつ改善する。その積み重ねが、欠品のない店舗につながっていく。そして私は初めて、感覚ではなく数値で経営できるようになった」

今後の展望

「売上3,000億円という2030年目標は高い壁だが、今は確かな道筋が見えている。欠品率が下がれば購買頻度が上がり、LTVが上がり、顧客満足度が上がる。その好循環をAIエージェントが毎日サポートしてくれる」

在庫補充リードタイムの根本解消には、物流センターの物理的なインフラ整備が必要だ。AIエージェントは毎日そのエスカレーションを記録し続けており、経営陣への投資判断の材料として蓄積されている。

「AIが毎日言い続けてくれることで、私たちはようやく投資の優先順位をデータで判断できるようになった。これが、人とAIエージェントが共創する経営の姿だと思っています」

左川商事のAIエージェントドリブン経営は、今も毎日制御サイクルを繰り返し、人々の豊かな日常を支え続けている。